テレビ朝日系列 水曜よる9時放送の「新警視庁捜査一課9係」スピンオフ小説がiPadアプリでも登場!
個性豊かな9係刑事たちのサイドストーリーは、
ドラマ「9係」脚本担当:波多野都氏による、電子書籍版だけの完全オリジナルシナリオ!
ここでしか読めないエピソードで、「9係」ワールドの新たな魅力に浸ろう!
■収録タイトル
Chapter.1『志保の1番長い日』
Chapter.2『矢沢の人情さぬきうどん』
Chapter.3『村瀬の知らないつかさの秘密』
Chapter.4『直樹の男の約束』
Chapter.5『青柳の七癖』
Chapter.6『真澄とキリン』
Chapter.7『倫太郎の冷や汗』
■本文抜粋
Chapter.7 「倫太郎の冷や汗」
ついこの間までかまびすしく鳴いていたミンミン蝉の声が、今はもう聞こえない。
時計の秒針がカチコチと響く9係室内で、加納倫太郎はひとり、夏の名残にひたっていた。
(そういえば、あれは去年の今頃だったかな)
倫太郎はふと思い出し、机の引き出しを開けて、重厚な木箱を取り出した。
この箱には年代もののボルドーワインが収められているが、倫太郎はその実物を見たことはない。
(これを開けるのは、いつになることやら)
倫太郎は複雑な笑みを浮かべた。
それは一年前のよく晴れた昼下がりのことだった――
捜査で倫太郎以外の全員が外出していた9係に、意外な人物が来訪した。
――安西大二郎警察庁警備局長だった。
「あなたが、加納警部ですね」
「はい、初めまして。安西……さんとお呼びすればよろしいですか?」
安西の肩書きがなくなったことを知っている倫太郎のその言葉に、安西は少し驚いた。
「もう知っておられましたか。先ほど依願退職してきたばかりだというのに」
「村瀬君は、いま捜査で外出してますが、伝言などあれば」
安西の娘・つかさは村瀬の婚約者である。
倫太郎の言葉に、安西は首を横に振る。
「いや、あなたに会いにきたんです」
「私に、ですか?」